創業CEO死亡でウォレット凍結は本当か?
Unchained、Unconfirmedは、Laura Shinというジャーナリストが作っているポッドキャストで、暗号通貨界の著名人を招いてのインタビュー形式で、Unchainedは2016年の6月にフォーブスのサイト上で始まった。2018年にLaura Shinが独立、独自運営になったが、まだForbesでも配信されている。Unconfirmedは新しく始まった短めのポッドキャストで、それぞれ毎週配信。Unchainedは約1時間、Unconfirmedは約30分前後。
さて、そのUncofirmedの2月8日の回はMyCryptoWalletのTaylor Monahanのインタビュー。最近「カナダの暗号通貨取引所、QuadrigaCXで、唯一のパスワード所有者の創設者が死亡、200億円相当の資産が引き出せない事態に」という件で、それが本当かどうかQuadrigaCXのアドレスを調べてみた話だが、結論から言うと、「そもそも200億円相当の暗号通貨が入ったウォレットは、コールド・ホット共に存在しない可能性が高い」ということになったようだ。
インタビューの中身を要約すると
- 死んだとされるCEOのGerald Cottonは、死ぬ2週間前に遺書を作成、不動産、飛行機、二匹のペットのチワワ、ペットのチワワの面倒を見るための10万ドル(!)を妻に残すと明記。そこまで準備していたのに死後にプライベートキーをどう誰かに残すか手配していないのはおかしい
- CEOが死んだインドは、偽の死亡証明書を発行する「ビジネス」があることでも知られる(そして死因の「クローン病」は、日常生活にはいろいろ支障をきたす大変な病気だが死ぬ人は少ない。死亡率1%前後)
- Quadrigaが過去に「自社のアドレスである」と公表した3つのアドレスの資金移動を分析してみた
- Quadrigaは、この3つのアカウントしか利用していないようだ。これはとても変で、通常Quadriga規模の取引所であれば数百、数千のアドレスを持っている
- 同様に同規模の取引所の持つアドレス間の暗号通貨移動は自動化されていることが多いが、Quadrigaではマニュアルに移動している可能性が高い。なぜなら、移動額が200ETHなどキリの良い数ばかりだからだ
- コールドストレージは、大きな入金が10−30回程度あり出金がない、という特徴的な資金移動パターンを呈するが、Quadrigaの3つのアドレス、またそこから入出金したアドレスにはそうしたものはない
- まとまった額のイーサリアムが最近Shapeshift、Bitfinex、Poloniexの3つの取引所にQuadrigaのアドレスから移されている
- 取引所間の資金移動は、法定通貨の入金機能がない取引所が日々の運営資金として他の取引所で暗号通貨を法定通貨に換金する、といった目的で行われることはある
- しかし、Quadrigaから移動している額は日々の運営資金とは思えない大きな額
- 具体的には、Poloniexには218,000 ETHが移動、その時点でPoloniex口座には770万米ドル相当の資金があり、Shapeshiftには320,000 ETHが移動、その口座には2000万米ドルの資金があった(この2つだけで、なくなったとされる資金の15%近い)
- Shapeshiftへの資金移動は特におかしな点が多い。というのも、Shapeshiftは取引が速い代わりに手数料が高く、これだけ大きな額を取引したら手数料だけでも相当額になってしまうからだ
- 一つ心配されることとしては、Shapeshiftなどのアカウントが、QuadrigaのユーザのKYC情報を使って不正に作られているかもしれない点
- KYCは「Know Your Customer」で、マネーロンダリング防止などの観点から口座開設時に個人確認をしなければならないという金融法のルール
- 通常パスポートなど、公的な個人証明と、それを持ったセルフィーなどを送らせて確認する
- KYCをする側であるQuadrigaは、自社ユーザから送られたKYC情報を使えば簡単に別の取引所でフェイクアカウントが開設できてしまう
つまり、要約すると、「CEOは逃亡。資金は、(おそらく個人情報を悪用して開設された)他の取引所の口座に流出中ではないか」ということになる。
KYCをする取引所にKYC情報を悪用されたらもうどうにもなりませんな。
なお、本件はまだあちこちで調査中で、もともとマイニングで有名になり、その後ブロックチェーン関連サービスも提供するようになったBitfuryは「長期的に暗号通貨アドレスを監視する」とし、Quadriga関連アドレスで今後何か劇的な動きがあれば即時に発見できるそうだ。Bitfury、マイニング以外のこともしてたのか。
いずれにせよ、自分の暗号通貨は自分で守らないといけない、という教訓がまた一つ増えたことになるのであった。