法定通貨担保型ステーブルコインTether
ステーブルコインシリーズ、とりあえずの最終回は真打ちTether。流通量で見ると、他のステーブルコインが100-300億円程度なのに対し、Tetherは2000億円以上ある。
Tetherはもともと、Realcoinという名前で2014年に発表された。そして2015年に香港の取引所Bitfinexで取引が開始されたが、Tetherの発行会社のTether Holdings LimitedとBitfinexのCEOは同じ人だったりする。そして、BitfinexはTetherを使ってBitcoinの相場操作をしていたのではないかとするテキサス大学の調査レポートも出た。いわく、Tetherの発行分はほぼ全てBitfinexに流れており、Bitcoinの値段が下がるたびにTetherを新発行してBitcoinを買っていた、と。
さらには、Tetherの発行分を担保する米ドルが本当にどこかにちゃんとキープされているのかも明らかではなく、
「もしかして、子供銀行券のように、なんの根拠もなく適当に発行してるだけでは?」
と疑問視されていた。
2017年12月には米商品先物取引委員会と司法省からBitfinexとTetherに対して召喚状も出て、2018年1月には監査会社のFriedman LLCとも決別。いよいよ子供銀行券疑惑は高まったのだが、それでもTetherは2000億円以上の価値を保ち続けた。(召喚状の結果がどうなったかは公表されていない)。
しかし同年10月に、Tetherの価格は急落、95セント台まで下がる。「すわ、Tether崩壊か」と市場はビクついたが、しかしそこでTetherに「買いオペ」が入る。
CoinMarketCapで見るとこんな感じで、緑が価格、水色が市場価値である。水色が直線的に下がるところでTetherの買い支えがあったと見られる。
段階的に、10月8日の28億ドルから、11月14日の16億ドルまでTetherの市場価値は縮小したが、その後もち直して現時点でのTetherの市場価値は20億ドルとなっている。「28億ドルから16億ドルまで縮小」ということは、ほぼ同額をTether発行元が買い戻した、ということで、12億ドル分のキャッシュを持っていたということか。
さらに、2018年12月には、ブルームバーグでは、同社の記者の独自取材結果として、プエルトリコのNoble BankにTether発行額分の米ドルがちゃんとあった、と報道した。(なお、この記者はUnconfirmedという著名Podcastでインタビューされているのだが、奥歯に物が挟まったような物言いで「何か隠し事があるのでは」と引っかかる。もしかしたらこの記者が極めて話し下手なだけかもしれないが)。
いずれにせよ、現状のTetherは
「すごく怪しそうだが、取り敢えずちゃんと危機は乗り切り、とりあえず最大の流動性を持つステーブルコイン」
となっている。
- Tether共同創業者のBrock Pierce
さて、この、「すごく怪しそう」という点で共通点があるのが、Tether共同創業者の1人、Brock Pierce。
Brock Pierceは子役として活躍したのち17歳で引退、ドットコムバブルに差し掛かる1998年にDigital Entertainment Networkというインターネット向け動画コンテンツ制作配信ベンチャーの初期メンバーとして参画したが、この会社は8800万ドルを調達したのち2000年に倒産し清算(・・というのは当時はよくある話なので、これは「怪しい」とは言えない)。
さらに、2013年にBlockchain Capitalというベンチャーキャピタルを共同設立、2017年までに8500万ドルを調達した。Blockchain CapitalはEOSのICOでも知られる。EOSは2017年から2018年にかけて1年という長い期間にわたって4000億円以上を調達したモンスターサイズのICOでもある。
下の図を見ると、EOSのICOがいかに巨大かわかる。
ソース:Elementus
Brock Pierceは、Mt. Goxのマルク・カルプレスの後任として2014年にBitcoin Foundationのディレクターに就任したが、彼の就任に反対する他のディレクターが辞任したりもしている。
ちなみに、Brock Pierce氏、左は2016年、右は2019年1月。
2016年ということはBlockchain Capitalのファンドレイズをしていた頃でもあり、まだ世の中の目を気にしていたのであろうか。右はCES 2019のパネルディスカッションでのものだが、他のパネリストはこのようにちゃんとビジネスの服装で、1人異様に浮いていた。(写真では異様さがかなり軽減している)。
2018年2月のフォーブスで「クリプト界の資産家トップ20」にも挙げられており、もはややりたいようにする、ということであろう。
CESのパネルでは、最後にパネリスト全員で写真を撮るところで、Brock Pierceが他の人たちと肩を組もうとして微妙に避けられていたのが印象的であった。私も真面目なクリプト企業をやっていたら、この人と一緒の写真が世に残るのは嫌だ。
シリコンバレーでは、どんなに人の目を気にしないシリアルアントレプレナーでも、こういうファッションになる人はいない。アメリカは広い。